4, 5, 6年前に書いた中二病全開の小話です。
今でも中二だと自覚していますが、フルパワーで中二です。
でも今の自分にはもう書けない話なので、記念に載せます。
なるべく、前ページの話を読んでからこのページに来て下さると嬉しいです。
スクロールをお願いします。
今後も増える可能性があります。
掃除しなければならない。
強迫観念のように、そう思った。



 響きの声に応ずるが如し (1)



一目散に二年七組の教室まで走った。掃除。きれい。無。ぴかぴか。そんな単語が頭の中を占める。 もう何も考えられない。四十人分の机をベランダに出して、床を磨くことに専念した。 これは指令なのだ。何時間かかっても成し遂げなければならない。
「ナツ、何してんの?」
不意に名前を呼ばれて、肩がとび上がった。振り返ると、扉口にクラスの学級委員長がいた。 下校時刻はとっくに過ぎてるというのに!落ち着くよう自分を宥める。自分の意志で身体が動くよう、調整する。
「何って・・・クリーンアップ?」
いつもの声が出て安心した。声が出なかったらどうしようかと思っていたのだ。だって、あまりにここは現実らしくない。
「イチは、どうしたの?」
学級委員長を務めるイチの名前は安藤桂一。だからイチ。おれが勝手に命名し、それ以来クラスではイチと呼ばれている。 そのイチはクラスメイトが一人で掃除している光景、教室に何も無い状態を見て不思議に思ったのであろう。 当たり前だ。おれは掃除当番だってすぐサボるから。 髪だって染めてるし授業もしょっちゅうフケるし、とても掃除なんてするキャラじゃない。 そういえば床が変に紅いことに気付いた。夕陽が沈もうとしているらしい。 教室内が紅色の海に覆われたような、そんな浮遊感がした。
「忘れものした。机はベランダ?」
「あー、そうそう。悪いけど勝手にとってってくれる?」
ベランダに出るため、イチが教室内に入ってきた。 夕陽に導かれて歩くかのようなその姿に、おれは見惚れてしまった。端正な横顔がとてもきれいだった。
「あったー?」
「・・・、あ、あった」
忘れもの(定期だったらしい)を持ってイチが再び教室内に入ってくるときに、なんかざわつくものを感じた。 なんだろう、この違和感。イチは教室にいるべきではない。・・・早く出て行って欲しい。 おれは掃除を続けなければならない。早く出て行ってくれ! 掃除する理由を聞くなんて野暮なことしてくれたら、おれはキレると思った。 イチはあいかわらずかっこいいが、それとこれは別である。
「悪かったねー。でもまあ、忘れものするイチも悪いんだから、おあいこ」
「・・・掃除、手伝おうか?」
「いや、おれ一人でやらないと意味ないから」
即答した。誰にもぜったい手伝って欲しくなかった。イチは「そう」と言うと教室を出て行った。 イチが訊ねたのは、きっと社交辞令に過ぎない。そう思うとなんだかおもしろかった。
「ねえねえ、イチー」
おもわず呼び止めてしまった。廊下を歩いているイチが止まって振り返ると同時に、目が合う。 やはり、イチはどこか人と違う。今まで出会ったことの無かった視線が絡み合う。
「おれと付き合わない?」
考えるよりも先に口が動いた。言った後、思考回路が廻って自分の言った内容を理解した。 そういうことか。ドラえもんが状況に合わせた道具を出すのと同じような挙動だった。
「付き合うって?」
イチはいつものポーカーフェイスを少し崩した怪訝な顔をして問う。 そりゃあ、イチにとっては驚くことだったかもしれない。 好き合うとか、そんな関係になるほど話したことがないわけだから。 二年に進級し、クラスメイトとなってまだ二ヶ月だ。第一、男同士だし。
「イチの恋人立候補ってこと」
相手が誰でも通用すると分かっている笑顔を作って言った。 眉間に皺をよせるイチもかっこいいなあ、なんて場違いなことを思った。 これは所謂、告白というものかも知れない。いや、実際にそうなのか? でもおれは別にイチをそういう意味で好きなわけじゃない。
「おれちょういい奴だし、浮気とかされても女みたいにギャーギャー騒がないからさあ。ね、ね。付き合おうよ」
「・・・・・・いいよ」
集中してないと聞き逃してしまいそうな小さな声で、イチはそう呟いた。・・・「いいよ」って言わなかったか? おれはおもわず面食らった。自分で言い出したことだが信じられなかった。 あの、誰とも付き合わないで有名なイチと、おれが?付き合う?
「えっ?マジ?マジ?」
「マジ」
「マジって意味知ってんの?」
「多分、ナツの言ってるマジと同じ意味のマジだよ」
「本気?」
返事代わりに、イチが今までに見たことの無いような表情でやわらかく笑うものだから、おれも笑った。 イチみたいに上品な笑顔はできなかったけど。



その後イチはすぐに帰宅し、おれは掃除を八時までした。
翌日、二年七組の教室は掲示物がすべて外されていたり、床や壁や黒板が妙にきれいだったことから結構な騒ぎとなった。 先生はHRで誰がやったのかとみんなに聞いたが、おれは名乗り出なかった。 学級委員長のイチも何も言わなかった。結局、この事件の真相はうやむやに終わった。

そして、おれとイチは付き合い始めた。



* * *



 響きの声に応ずるが如し (2)



イチと付き合い始めて三週間が経ったが、これが”付き合う”というものかどうかと云えば極めて微妙である。 恋人らしいことは一切無い。強いて言えば、一緒に昼飯を食べたり下校したりするぐらいで。 しかも毎日というわけではない。付き合うってなんだ?自分から言い始めたことだが今更ながら不思議に思う。 でも、イチがいい奴なのは確かだ。



「夏だねえ」
ベランダに腰を並べて、おれとイチの二人は仲良く(本当に仲良くなのかは疑わしい)昼食をとっている。 目の前には夏直前の青空が目に痛いほど広がっている。この独特な青色は焦燥に駆りたたせる何かがあると思う。 それはなぜなのか。深く考え込んだことは無い。
「そうだね」
「マリオカートしたいなあ、スーファミの」
「・・・関係無いし」
「いや、でも夏になるとやりたくならない?なんでだろ。あ、イチってゲームやんない?」
おれの見る限りじゃイチはゲームをやらなそうだ。もしゲームをやるとしてもパソコンに入ってるマインスイーパとかっぽい。 わ、ありえそう。
「別にそんな好きじゃないけど、持ってると言えば持ってる。一応、マリオカートも持ってるよ」
「ええっ、スーファミの?64?」
「どっちも」
イチは意外なことにゲーマーだった。驚愕の事実だ。
「うちのスーファミ、埃かぶっててできないんだよ。息フーフー吹きかけても動かないしさぁ。イチんちのは?」
「うちのはできると思うけど」
「じゃっ、こんどイチんちに行ってやっていい?いいよね?わ、たのしみ!」



そんなわけで貴重な休みの土曜日、駅三つ分を越えてイチの家にやって来た。 知らなかったことだが、イチのお父さんはお医者さんらしく(しかも院長ときた)家もそうとうでかかった。 なんかゴム製みたいの、トゥーンタウンにありそうな家。曲線ばかりで丸まっている印象だ。
「もしかしなくても、おれ、玉の輿?将来の美人秘書?」
「・・・ナツ、思ってることをいちいち口にしない方がいいと思う」
イチの家にお邪魔すると、玄関だけでもおれの部屋ぐらいの広さがあっておもわず「うわひゃぁ」と意味のわからない声をあげてしまった。 更に階段がすぐ目の前にあって、弧を描いて二階に続いている。外見はトゥーンタウンで、中身はシンデレラ城みたいだ。
「それに医者に秘書はいないけど」
「あ、そうなの?じゃあかわいい看護婦ちゃんで」
「・・・」
その豪華な階段をのぼってイチの部屋に案内されると、そこはおれんちのリビング以上の広さだった。 床には高級そうなカーペットがひいてあって、最新式であろうパソコンやテレビ、なぜだか家具一式まで揃っている。 この部屋だけで生活が成り立ちそうだ。とにかく凄い部屋だった。
「すげー」
「そう?」
「すごすぎだって。誰だってフツーそう思うから。他の人の反応はどうだったんだよ?」
この部屋を見て平然としている人がいるなんて信じられない。
「友達とか入れたことなかったし」
「あ、そう」
確かにイチはそんな感じである。じゃあ付き合った恋人もいなかったってことだろうか。 そういえば、そんな色めいた噂も聞いたことが無かった。イチは優しいし、容姿もいいし、もててもいいはずなのに。 いや、実際にもてているはずだ。以前聞いた、クラスメイトの女子がイチに告白してふられたという噂話を思い出した。
スーファミはこれまたおれの背以上ある棚に保管されていて、マリオカートのソフトを入れると一発でついた。 いまどき珍しい現象だ。
「うわっ、懐かしい。おれノコノコね」
そしてなぜかイチはヨッシーを選んで(本当に謎だ)50ccキノコレースをしたところ、一位がイチでおれは二位だった。 こう言うのもあれだが、おれはマリオカートには自信があった。150ccでもコンピューターなんかには負ない自信がある。 イチは頭も良ければ、ゲームもできるらしい。
「まさか今日のために練習したとか言わないよね?」
「こんなのに練習なんかいらない」
「わあ・・・イチくんってば、いやみったらしい・・・」
フラワーコースとスターコースもやってみるが、同じ結果に終わった。どのコースでも勝てない。
「こんなのイチの陰謀だっ」
コントローラーを投げ捨てて、イチの肩を掴み高級カーペットの上に押しやった。 イチはおれのいきなりの行動に呆気にとられたようで、目を見張っている。いや、丸くするというんだっけ?
「ねえ、せっかくイチの部屋に来たんだし、なんかえっちいことでもするー?」
「何言って」
「ええ、だめ?いいじゃん、おれたち恋人同士だよ?」
まだ呆けているイチの上に馬乗りになって、手始めに軽いキスをしてみた。ちょんって唇が乗るだけの。付き合い始めて約一ヶ月が経とうとしているのに、初めてのキスである。健全な高校生のお付き合いでは滅多に無いことだと思う。いや、男同士の時点で不健全か。
「・・・また今度」
「今がいい」
珍しく真顔で言ってみると、それなりの効果があったような感触を掴んだ。
「大丈夫だよ。おれ、別に初めてじゃないし」
「・・・女相手にあるってことで?」
「違う。男相手に」
イチは面食らった顔になった。まあ当たり前か。ついにカミングアウトしてしまったが、特に気にしないで、おれはいつかの日にできなかった上品な笑みをイチに向けてみた。
「ね、だから安心していいからさー」
「おれはいやだ」
「なんで?!イチの頑固者!臆病者!チキン!鶏!」
いっきに捲くし立てた後イチの顔を覗き込むと、イチがもの凄く微妙な表情をしていることに気が付いた。不機嫌とも怒ってるとも、呆れてるともとれない顔。もしかしたら、悲しいというのが一番近いかもしれない。
馬乗りになったまま降りる気配を示さないと、イチの腕が伸びてきておれの頭を撫でた。なんかこどもをあやすような行動にすごく腹が立ったので、その手首を掴んでおもいっきりがぶっと噛んでやった。
「・・・いきなり噛むなよ」
「うるさい!イチなんか鳥インフルエンザにでもかかれ!ばーか!」
掴んでいた手首をぞんざいに投げ捨てて立ち上がり、部屋から出て行こうとしたところ、逆に今度は腕を掴まえられた。バランスを崩したおれは、カーペットのうえであぐらをかいているイチの懐に飛び込んでしまった。
「今はこれで我慢しろ」
イチはそう言って、さっきみたいおれがしたみたいに軽いキスをしてきた。不思議なことに、こんなこどもたちがするようなキスだけでおれは満たされた気分になった。幸せで、有頂天な気分。なんか少女漫画のヒロインの気持ちが不覚にも分かった気がする。きっとイチが果てしなく純粋で、優しいキスをくれたからだ。恥ずかしいけど、今この世界は優しくて温かくて、こんなにも心地良い。
「・・・許してやる」
まるで夢の中にいるような錯覚。おれは頬照った顔を隠すため、俯きながら言った。
この日から、何かが変わる気がした。



* * *



こんな癇癪を起こしやすい高校生もどうかと思う笑
昔は今よりよっぽどボーイズラブ的なものを書いてたんだなあと思いました。
確かほんとうに2年7組だったときに書いたやつです。
生産と産出を繰り返す世界。
しかし、消化は有限だ。
電気製品や排泄物、然り、人間だって当て嵌まる。
火葬されて骨になっても結局は残るのだ。
最終的な消化は無い。
なんだって残余として存在している。

地球でつくられた物は、地球に留まる。
絶対的なこと。
変形して、居続けて、積もりゆくばかりで。

捨てることはできるのに、無にかえすことはできない。



 リサイクル少年 A面



「別れよう」
ああ、そうですか。どうぞ。
同じ言葉で別れを告げられたのは何回目だろう。 それはもう数え切れない数字のはずだ。『捨てられる』ことに慣れてしまった。だけど、痛い。自嘲したくなる。この生産された気持ちをどうすればいい?形体しないものは捨てられない。積もった感情はただ痛いばかりだ。記憶は怖い。

「また、ふられたんだ」
「うるせえよ」
悪態つくおれを見て笑う。奴は捨てられる度におれに構ってきた。ほっとけ。この世界、なんだって最後は捨てられるんだ。おれは捨てられる数がたまたま多いだけ。
「おれが拾ってあげようか」
「え」
「リサイクル。地球に優しいだろ」
「おれを再利用するってこと」
「そんなとこ」
こんな申し出は初めてだ。そうか、リサイクルね。いいんじゃないですか。
「おれは高質な蓄電池だよ」
「結局、消費されんじゃねえか」
「永久に充電できる型」
奴は笑った。そんな電池つくったらノーベル賞もんだよ、と。
おまえだけは、おれを捨てないで。永久に使い続けて。お願いだから。

「灰になっても、愛してあげる」

残されない残忍な言葉。
その言葉だけでも形になってほしいと願う。
一生、地球から抜け出さないよう縛り続けたい。

皮肉だね。
開発と発展は常に行われてるのに。



* * *



大量生産・大量消費・大量廃棄型
焼却処理場が増設され、ダイオキシンの発生が促される。

多くの公害が起こる。
日に日に地球が破壊されていく。
それに対応するには、どうすれば良いのか。

彼には付属品が何点かついてるが、
基本的に何も持たない、何も持ち歩かない。
いつだって手持ち無沙汰状態だ。




 リサイクル少年 B面



”永久に充電できる蓄電池”は、中々おもしろい。 奴は物好きだ。だから奴と付き合った奴らはもっと物好きだ。だが、至上最高の物好きはきっと、おれだ。
「まったくばかげてる。どいつもこいつも、常に”捨てることが可能な状態”にあるから、なんでも購入するし、消費する。もうとっくに飽和状態だっていうのに勘違いして」
「ああ、なるほどね。だからお前は始めから何も持たないんだ」
「身につけた以上、捨てることが義務付けられてるから」
「お前は捨てる行為が嫌いなわけ?」
「それもあるし、捨てた後も問題が多発してるだろ。化学物質とか」
「最後まできれいさっぱりに無くなることは無いよな。目に見えないミクロ級の物質に名前つけてるぐらいだし。つまんねえ」
「まったく。元素とか細胞の名前つけて何になるんだっての。他にすることがあんだろ」
「コンクリートとか意味なくね?」
「最高級の無意味。地球一単位で考えると、あの建物だって標識だって植木鉢だって作った後、どうするんだって話だよ。どうせなら生まれ変わって水素になりたい」

捨てることの概念とか、普通の奴が聞いたら首を傾げそうな話ばかりする。 奴はこんなこと言ってるけど、結局は捨てられる受身が怖いだけだろう。つまり、臆病。おれは嫌いじゃない。

「形あるものが嫌いだ。憎い」
「それは捨てられるからだろ」
「だけど、つまらないほど煮え切った感情はもっと嫌いだ」
「それは捨てられないからだろ」
「だからおれは、何もしたくない」
「なら、一生手放さなきゃいいだけの話じゃねえか」
「そんなの理想だ」
「試しにやってみれば?」
「なにで」
「あー・・・そうだな、これやる」
「・・・・・・”安全第一”?」
「御守りだ。一生持ってろ。死ぬまで持ってろ。いいか、捨てんなよ」
「ふーん、頑張ってみるよ。でも一生とか、出来るもんなの?」
「だからお試しだって」
「試用にしちゃ、期間長すぎ・・・」
「ものを所持する習慣を身に付けることが、お前には必要だ」
「お前のお試し期間は?」
「は?」
「だから、お前自身」
「前言ったじゃねえか。灰になっても有効」

なんておれたちは地球に優しいのだろうか。奴は歩く公害とやらだが、おれがそれを抑制している。きっと水素原子だ。 何か厄介なものと結合しない限り、奴は無害であり続ける。やっぱり、地球に優しい。俺も、こいつも。

「俺、お前といればなんとかなる気がする」
「へえ、そりゃ結構なことで」
「責任取れ。嘘吐いたら殺す」
「お好きなように」
「嘘だ、生きろ」
「お前も、つまんねえ無機物になるなよ。生きろ」




* * *



これはひどい笑
授業でゴミ処理場を見たときに書いた記憶があります。
このままだと地球はごみで埋まる!と思って。理屈っぽい。異常なぐらい理屈っぽい。