青春パラドックス 13



ところ変わって生徒会室。

俺は部屋が荒らされたことを告げて、会長様に「自分のファンぐらい躾けといてくださいよ」と嫌味を言ってやった。

しかし。

「例えそれが俺の親衛隊がやったことだとしても、俺が命令したわけじゃないし関係ない」
「はあ?」

少年隊が非公認だからと言っても、その言い草はないだろうが。芦田さんとは大違いだ。ちょっと今回のことについては俺もピリピリしてますよ。
俺は報復にと会長様の両頬をつまんでやろうかと手を伸ばしたら、その前に腕を払われてしまった。すっごい仏頂面で。

「じゃあキーリィは今日の寝床がないんだ」
「そういうことになりますね」

ぶすーっとして答えた。
昨日は待合室で寝させてくれたからよかったのだが、今日からは友だちの部屋に泊まらせてもらいなさいと言われた。友だちいないんですけどなにか、なんて言えるか。
ちなみに河合も友だちいない系だと思ってたのに、意外といたらしい。あのときの言葉は嘘じゃなかったのか・・・。だとしても、河合が俺を裏切ったことには変わらない。俺たち、仲間じゃなかったのかよー。

「俺の部屋に来る?」
「全力で断らせていただきます」
「遠慮しなくていいのに。生徒会役員は1人部屋なんだよ」
「え?そうなんですか?」

なんて待遇がいいんだ、生徒会の皆様は。ということは、芦田さんに頼もうか悩んでいたけど、どうやらその心配も無さそうだ。

「タロー先輩泊めてください!」

俺はお茶を飲んでいるタロー先輩に、膝を折って頼み込んだ。

「え?なんで俺?!」
「消去法です!」

ボディーガードをやってる身としたらやっぱり会長様の部屋が一番なんだろうけど、えっと、その、会長様は遊び人らしいですからね。部屋にお邪魔するのも無粋ってやつだろう。恭平さんは論外。

「消去法って、余りってことかよ・・・」
「あ、違います!タロー先輩と交友を深めたいんです」

だめですか?と首を傾げてタロー先輩の顔を覗き込んで聞くと、しぶしぶだけど「別に、いいけど・・・」と頷いてくれた。タロー先輩もなんだかんだでいい人だなあ。

「じゃあキーリィは部屋をローテーションで回ろうよ。今日は俺、明日は俺、明後日は姫原、明々後日は俺、みたいな」
「いえ、人の話聞けっていうか、恭平さんと会長の部屋はやだっていうか、そのローテーションの順番間違えてるっていうか」
「俺もコイツなんて部屋に入れさせねえからな」
「あ、やっぱり会長の部屋に泊まろうかな!」
「・・・・・・」

嫌がられるとしたくなる。これ、人間の鉄則ですよね。

「そもそも会長の少年隊が悪いんですから、それなりの償いはしてもらわないと」
「俺の親衛隊がやった証拠があるのか」
「あったら今ごろ、会長の少年隊っぽいやつ全員締め上げてますよ」
「・・・・・・」
「まあさっきのは冗談で、俺も会長の部屋なんてごめんです」
「キーリィ、俺の部屋はどうかい?」
「しつこい!」

肩に背後から顎を乗っけてきた恭平さんに肘打ちをかました。が、その攻撃はあっさりよけられてしまった。首を回して睨みをきかせてみるけど恭平さんはにこにこ笑うだけで、見てるこっちが無性に腹立たしくなってきた。笑うだけで人を苛立たせるなんて、すげー才能だな。

この人を始めから相手にするのが間違えてると気付いた俺は、再び会長様と向かい合った。

「・・・俺の部屋を荒らした犯人が会長の少年隊じゃないとしても目を付けられてるのは事実なんで、どうにかしてください」
「お前がどうにかしろ」

んなめんどくさいことやってられるか。それに会長様の少年隊は聞く耳持たずだということを俺は身を持って知っている。っつーか、この学校は話を聞かないやつが多いな。
うーん、とりあえずここは作戦変更か。

「そんな冷たいこと言わないでくださいよー。ちょっと「芝規里に手え出したら殺す」みたいな感じに言ってくれれば黙ると思うんでー」

お願いしますよーと、俺は会長様にかわいくおねだりする選択肢を選んだ。プライドなんてございません。
しかし会長は眉間に皺を寄せただけだった。こいつには俺の魅力が分からないのか・・・。

「キーリィ、それじゃあ逆にいじめられるんじゃないかな」
「へ?なんで」
「その言い方だと、いかにも姫原が芝のこと気に入ってる、みたいになるんだと思う」
「おー、タロー先輩頭いい!」

つまり会長様に少年隊を黙らせるのも無理というわけか。難しいな・・・。

「あ、会長が少年隊のやつら全員とセフレになればまるく収まるんじゃないですか?」
「・・・・・・」

名案!と思ったのに、会長はさっきよりもさらに微妙な顔になった。眉間に皺を寄せるのは癖なんだろうか。直した方がいいぞ。



* * *



「キーリィ、さすがにそれじゃあ姫原の体がもたないよ」
「若いんだからがんばってください!青少年でしょう!」
「お前死ね」
「えっと、じゃあ、こう、生徒会が生徒と交流する場をつくればいいんじゃないですかね?」

そうすれば少年隊だって会長様にお近づきになれて満足するだろうし、俺に絡んでこなくなるかもしれない。あ、思いつきで言ったことだったけど、これはほんとに名案かも。

「そうですよ、学校のアイドルだったら少しぐらいそういう振る舞いをしてください!」
「例えば何をすればいいの?」

これはタロー先輩だ。俺のためにタロー先輩はやる気になってくれてるのか・・・。規里、感激。

「そうですねー・・・、CD発売とか?写真集とか?」

しかし、アイドルといえばこれぐらいしか思い出せない、俺の凡庸な脳みそ。

「くだらない」

案の定、会長様に鼻で笑われてしまいました。

「じゃあDVD!」
「かわんねーし」
「ほら、3人で劇とかやったらいいんじゃないですかね」
「・・・・・・」
「例えば?」
「えっと、白雪姫?」

ああ、これはいいかもしれない。
白雪姫がタロー先輩で、王子が会長様で、魔女が恭平さん。やばい、皆さんはまり役すぎる。
そう言ったら、「誰が姫なんかやるか!」とタロー先輩に言われてしまい、会長様はだんまりで、恭平さんには「7人の小人は誰がやるの?」と聞かれてしまった。

「俺が7人分CG加工とか?」
「小さなキーリィが7人もいたら、さぞかしかわいいだろうねえ・・・」
「あ、ごめんなさい、これ却下で」

不気味な笑みを浮かべる恭平さんが気持ち悪かったので、この話は無かったことにした。うん、無難な判断だ。

それからも不思議の国のアリスとか、スターウォーズ、デスノートやら色々提案してみたが、タロー先輩に「なんで俺が女役なんだよ」とか「制作費いくらすると思ってんだ」とか文句を言われてどれも却下されてしまった。(ちなみに会長様はなんの反応もしなかった。もしかして乗り気?さすがナルシスト)

結局この日は、交流の場を設けるという話はなんの進展もなくお開きとなった。

そして俺はタロー先輩に夜、お泊りさせていただく約束をして寮に戻った。
噂ではタロー先輩にも少年隊がいるらしいから(確かにトイレで襲われてたもんな・・・)(しかしあれは少年と言うにはおこがましいほど、でかかった)、今日のお泊りのことだって周りに知られないようにしなくてはならない。一緒に行動するなんてもってのほかだ。めんどくさいけど、これ以上恨まれても困るのでおとなしく従うことにした。



* * *



河合君はおともだちと仲良くご飯を食べるらしいので、俺はオンリーロンリーな夕飯をとるはめになった。飯は一人で食べるもんじゃないなあと改めて思った夜だった。

なんだか悲しくなってきたので、かけそばをさっさとたいらげ、得意の抜き足差し足忍び足でタロー先輩の部屋に向かった。もしこれで誰かに見つかったらまた敵が増えるに違いないな。めんどくせー。

コンコンと控えめにノック。

「タロー先輩、入っていいですか?」
「どうぞー」

おじゃましまんもす、と言ってドアをあけた。

生徒会は色々と待遇が良いから、部屋が広かったりシャンデリアだったり大理石だったりホームシアターだったりするのかと構えていたが、タロー先輩の部屋はいたって普通だった。俺の部屋と違うところといったら、ベッドが一段ということと机がひとつということぐらいか。

「結構普通ですねー」

きょろきょろ辺りを見回しながら言うと「それはなにが言いたいの?」と少々睨まれてしまった。(睨んでもかわいいんだけどね。あ、俺、毒されてる?)
最近、どうも失言が多い。消去法だったとはいえ、タロー先輩と仲良くなりたいというのは本当のことだったんだけどなあ。

「今日からお世話になります」

俺は持参の枕を手に持って、深々とお辞儀した。

「え、今日だけじゃないの?!」
「邪魔はしませんから!」

俺はグッと親指を上げた。
もしこれで拒否られたら俺は野宿するしかない。学校内で野宿なんて聞いたことがないぞー。

俺の必死の形相に折れたのか、根本的に優しいタロー先輩は「えー・・・」と言いつつも決して俺を追い出そうとはしなかった。やっぱり優しいな。恩返しに、タロー先輩のためにお茶の葉を買ってこようと心に決めた。もちろん静岡産。

とりあえず荷物を置かせてもらって、早々と持ってきた布団を敷き始めた。

「もう寝るの?」
「ごろごろするのに敷いてみただけですよ。風呂にも入ってないし、怪談話もしてないし」
「・・・怪談話は置いといて、お風呂は何時頃入れようか」
「え?入れる?」
「あ、生徒会役員は部屋にお風呂がついてるって聞いてなかった?」

すげーいい特権だなあ、おい。補佐にもそれぐらいの待遇をしてくれていいのに。



それから湯船派かシャワー派かの話で盛り上がって(シャワーだけじゃ一日の汚れが落とせないっていう俺の意見にタロー先輩は首を縦にぶんぶん振ってくれた。タロー先輩は俺と同じで断然湯船派だったらしい)、「いっしょに入りますかー?」と聞いたら、「バカ言うな!」と怒られた。

そんな感じでひとりでゆっくり浸からせてもらって(ひとりで入れる風呂って貴重だー)、風呂上がりにはアイスまでもらってしまった。
なんかお泊り会みたいだ。よし、明日トランプ買ってこよう。あとお菓子もごっそり買い込んでこなくては。あ、あとおちゃっぱも忘れないようにしないと。

「ところでなんで高島の補佐になったの?」

どのタイミングで枕を投げようかとかいろいろ考えていたら、風呂から上がったばかりのタロー先輩に、なんの脈絡もなくそう尋ねられた。



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