青春パラドックス 14



「なんででしたっけねー。気付いたらバッチ渡されてて」
「気付いたら、って・・・」

あ、呆れられちゃいました。
思い出そうとして記憶をたどってみるが、実際、なんでなのかよく分からない。いきなり「気に入った」って言われたんだもんなあ。

「向こうのひとめぼれ?」
「・・・・・・」
「やだなー、引かないでくださいよ」

しかし引くってことは、それだけ俺の顔が・・・。ちょっとへこむ・・・。

「あ、そうだ。前に言ってたタロー先輩の補佐候補って誰なんです?」

気を取り直して、前の爆弾発言(っていうほどでもないか)以来気になっていたけど、すっかり忘れていたことを聞いてみた。ん?それはつまり気になってなかったということか?まあ、いい。

「早く任命しないと生徒会引退になっちゃいますよ!」

俺は訴えかけるように言った。
というか早くしてもらわないと俺がひとりでさびしいし、周りのあの視線をひとりで受けるのもちょっとつらい。せめて仲間がいると心強くなる気がする。

「・・・実はね、まだ分からないんだ」
「? そいつが補佐をやってくれるかまだ分からないってことですか?」
「いや、誰だか分からなくて」
「え?!記憶喪失?!」
「違うよ!・・・そうじゃなくて、まだあれが誰だったのか確認できてないってこと。探してるんだけどね・・・」
「あ、もしかしてひとめぼれってやつですか・・・!」

また新しい恋の予感・・・!!
ひとめぼれってことは、道路に捨ててあった猫を拾ってあげる姿に恋したとか、かな。ベタだ!ひゅーひゅー。
・・・ん?だとすると、タロー先輩の恋のお相手もまた男というわけか。・・・今は、それは気にしないでおこう。

「俺も頑張って探し出しますから!」

任せてください!と、持ってきたカバンからごそごそとノートとシャーペンを引っ張り出して、俺は警察官のように「その人の顔の特徴とか覚えてます?」と調査し始めた。なんとしてでも、そいつ探し出してやる。

「・・・申し訳ないんだけど、その人変なお面かぶってたから、顔が分からなかったんだ」
「え?その人、変質者じゃないんですか?」
「絶対違う!」
「うーん、奇特な人もいるんですねえ・・・」

っつーか、なんて迷惑な野郎だ。探しづらいじゃないか。
とりあえず、ノートに「お面」「変質者」「きとく」と書き込んでおく。
それにしても、お面かぶって外歩くとか・・・、そんなことするやつこの世に健吾ぐらいしかいないと思ってた。あいつもしょっちゅうお面かぶってその辺ふらふらしてたなあ。よく警察に補導されなかったもんだ。

「他に何か特徴はありましたか?」
「声しか聞けなかったから・・・」
「じゃあ探すのも困難ですね」
「そうなんだ。念力を飛ばせば来てくれる、って言ってたから毎日こうやってお祈りしてるんだけど・・・」

タロー先輩はそう言って、両手の指を絡めてキリストにお祈りするかのようなポーズをとった。そんなポーズもタロー先輩がやるとすごく神聖なものに見えてくるから不思議だ。やっぱり美形っていろいろと得だよな。

「なかなか相手が電波をキャッチしてくれないんですね」
「そうっぽい」

落胆して、タロー先輩は肩を落としてしまった。
よし、タロー先輩のためにも、ついでに俺のためにもそいつをさっさと探し出さなければ。

・・・と思って、一瞬何かが頭をよぎった。

なんだろう。この、頭の中で水に流されいるかのような、掴めない何かは。
俺は必死で手探りしてみる。

「あーいらいらするー!!」
「し、芝どうした?!」
「ちょ、ちょっと待っててください、もう少しで掴めそうなんです・・・!」

えっと、えっと・・・。

あ、念力と言えば・・・、確かこの学校に来てばっかのとき、会長様と勘違いしてタロー先輩を助けたことあったような・・・。
で、そのとき、念力とか言った気がする・・・。あれ?お面?
俺、お面かぶってなかったっけ?



・・・え、っとー?




* * *



「・・・あのー、その人とはどこでお知り合いになったんですか?」
「うーん、向こうからしたら知り合いってほどじゃないんだろうけど、ちょっと困ってるところを助けてもらったと言うか」

あ、れー?
タロー先輩が言ってるのって、ひょっとして、俺?

「えっと、そんなヒーロー気取りのやつになんか、補佐は務まらないと思いますよ・・・?」
「なんで?!」
「だっ、て、お面、とか、つけてる、変質者なんですよ、ね?」

すごい勢いで問いただしてくるタロー先輩にちょっと及び腰になったが、俺も言い負けてなんかいられない。(もう負けてるとか、そんな話はノープロブレムだ)
変質者(俺?)を補佐にするなんて間違えている。断固反対!っつーか拒否。

「だって助けてくれたよ?」
「ん、まあ、そうなんですけど・・・、あ、その人、この学校の生徒じゃないかもしれないじゃないですか」
「この学校の制服着てた!」
「・・・制服フェチだったのかも、しれま、せん、?」

あまりの剣幕に引きつつ、俺は自信なさげにえへへと笑ってみた。自分でももうちょっとマシな言い分を見つけようよとは思ったが。
タロー先輩には申し訳ないけど、なんとしてでも思い止まらさせていただきます。

「・・・さっきまで、いっしょに探してくれるって言ってたのに・・・」
「い、いえ探しますけどね!24時間体制で探させていただきますけどね!」

押してだめなら引いてみろ作戦か、このヤロー。

意外と策略家のタロー先輩に冷や汗をかきつつ、この場をどう取り繕おうか俺は必死で思案し始めた。

カッチョメンを俺の知り合いだと言うか?いや、それだとじゃあ誰だと問い詰められるかもしれない。じゃあ・・・、ってそんな中々すぐ思いつくもんじゃないし。・・・えっと、じゃあ、じゃあ、・・・ジャージャー麺?ふざけんな俺。



・・・ん?
むしろ名乗り出た方が得策か?

タロー先輩も、そのカッチョメンが俺だって分かったら失望してくれるかもしれない。「えー?芝だったらやっぱやーめた」みたいな。

「えっと、もしそいつがコスプレマニアの変態ヤローだったとしても、タロー先輩は補佐に任命するんですか?」
「するよ」

即答ですか。

タロー先輩って、意外とアブノーマルなお方?

さすが生徒会役員なだけあるなー、と俺はうんうんと頷いて感心した。
しかし、これはなんとしてでもカッチョメンだってばれないようにしないと。ばれたら1人で2人の補佐をしないといけないし、周りの妬みも2乗になってしまう。ん?2乗しちゃいけないか?2倍か?

「じゃ、そろそろ寝る時間ですね」

そう心にズバッと刻み込んで、とりあえず今日は寝させてもらうことにした。
下手に喋って、ばれても困る。口は災いの元だ。おお。まさに俺のためにあるようなお言葉・・・。

「え?まだ8時だよ」
「なまはげが来ちゃいますって!」
「は?」
「わるいごはいねーがー!」

俺はがばっと頭からすっぽり布団をかぶって寝る体勢に入った。



* * *


翌日。
俺は気配を消して背後からそーっと近づき、

「会長!!」

がばっと飛びついた。

「?!」

会長様は俺の奇襲に驚いたようだったが、気付くとすぐさま背中に掴まる俺を引きはがそうとした。一方の俺も負けじと、振り落とされないように会長様の学ランをがっしり掴んでしがみついた。
もちろん、周りに誰もいないことを確認しての行動です。

「今日、会長の部屋に泊まらせてくれませんか?」
「は?」
「今日だけと言わずに明日も来週も!」
「お前小野の部屋に泊まってんじゃないのかよ」
「男のヤキモチは醜いですよ!」
「何言ってんのか分かんねーし」
「会長の部屋にいるときは俺が愛人の代わりをしますから!」
「人の話を聞け!」
「あんたもな!」

そんなこんなで。
昨日、タロー先輩の補佐候補っつーのが俺だと発覚した。
これ以上タロー先輩の近くにいたらばれるのも時間の問題なので、俺は潔くタロー先輩の部屋を出ることにしたのでした。

「おねがいしますー」
「断る」
「かわいい後輩がこんなに頼んでるのに!」
「てめえだって昨日俺の部屋なんかやだっつってただろ」
「つきひははくたいのかかくにしてゆきかうとしもまたたびびとなり」
「・・・つーか退け」
「やだー!」

俺はますます強くガシッと会長の学ランを掴んだ。
タロー先輩の補佐をやるか、それとも会長様の部屋に泊まるか。どっちがましかなんて火を見るより明らかだ。補佐なんかやってられっかっつーの。

「放せ」
「なーまーずー」
「しつこい」
「会長って道端で人が倒れてても助けないタイプだ・・・!」
「・・・」
「むしろ川に落として留めさしちゃうタイプだろ!」
「お前が落ちろ」

廊下でギャーギャーこんなやりとりをしてたら、目の前にあった生徒会室のドアが不意にガラリと開いた。

「何を騒いでるんだい?」
「げっ恭平さん・・・」

できることならこの騒ぎを見られたくなかった人が出てきた。

「お前高島の補佐なんだからコイツの部屋に行きゃいいだろ」
「そうだよ。キーリィだったらいつ俺の胸に飛び込んできてくれても構わないよ?」
「こいつだけはやだ・・・!」
「こいつじゃなくて、恭平さん。で、その愉快な恰好は何?」

答える間もなく、にこにこ笑っている恭平さんの手によって俺は会長様からべりっとはがされてしまった。

「キーリィ、小野の部屋でなにかあったのかい?」
「いや、その・・・、タロー先輩の部屋から邪悪な気を感じまして!」

幽霊が見えたんです!金縛りにあったんです!
必死に弁明したが、会長様も恭平さんもなんだか訝しむ顔になってきた。もしかして墓穴掘った?

「やっぱり今日から俺の部屋に来るといいよ」
「いや、本気であんたの部屋は無理なんで」

恭平さんの部屋は絶対にダメだと、本能が言っている。こんな得体の知れない人間といっしょに一晩なんて無理だ。
顔をできるかぎり横にぶんぶん振ったが、あいかまらず恭平さんは聞く耳持たずで「あんたじゃなくて恭平さんだよ」と訂正してきた。今はそんなのどーでもいいから。

「会長、お願いします」

俺は頭を下げて頼んだ。

「断る」
「な、なまず!」
「高島がこう言ってんだから泊まらせてもらえ」
「そうだよキーリィ」
「勘弁してください」

マジで。

「会長、俺を泊めてくんないって言うなら野宿しますよ」
「勝手にしろ」
「え、勝手に会長の部屋に行ってもいいんですか!」
「は?!ちげー、」
「わーいわーい!」

会長ってジェントルマンなんですね!
笑顔で言って会長の両手をつかむと、会長のこめかみがひくひく動くのが見えた。

「死ねよ」

会長の足が横から飛んでくるのが見えたが、それは前腕でカバー。

「俺の部屋に来ればいいのに」
「またの機会に!」

俺は笑顔で恭平さんに言ってやった。もちろんまたの機会なんてないけど。
恭平さんの部屋なんかに泊まった日には、起きたときに腕の一本ぐらい無くなってそうだからな。断固として拒否させていただきます。



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