青春パラドックス 18 「・・・・・・」 「・・・・・・」 「・・・・・・いやがらせを受けてるという自覚がまったく無かったわけか」 「いや、受けてませんって」 少年隊の皆さんには申し訳ないけど、見事に被害受けてないし。狙って避けてたわけじゃないとはいえ、俺すげー。あ、狙ってたわけじゃないから、すごいのか?ん?とにかく、俺すげー。 まあ階段から突き落とされただけでも充分いやがらせですけどね。 「・・・・・・小野が、不安がってた」 「へ?」 小野? って誰だっけ?と首を傾げて、ああタロー先輩かと思い出す。 でもなんでここでいきなりタロー先輩? どうやら会長には話を飛躍するきらいがあるらしい。新しい発見だ。というかこんなに長く話したことなかったもんなー。 「お前が部屋を移動したから」 「・・・・・・ああ」 つまり、俺に嫌われたとか思っての不安? 「なんで小野の部屋から移動して来たんだ」 「え、だからタロー先輩の部屋には邪悪な怨霊が」 「・・・・・・」 「・・・・・・」 「・・・・・・」 「・・・・・・男の嫉妬は醜いですよ!」 会長の想い人のタロー先輩の部屋に一晩泊まったことは申し訳ないとおも・・・ったりはしないけど、な!だってあのときはタロー先輩の部屋以外思いつかなかったんだから、しょうがない。うん。 「お前、頭おかしいんじゃねえか」 「は?!」 「俺は小野のことをどうとも思ってない」 「またまた!」 頭がおかしいと言われたことはいつもの暴言だと思って置いといて。 会長も素直になっちゃえばいいのになあ。ここまで頑固だと逆に微笑ましく思えてくる。こんなバイオレンスな人が恥ずかしがることってあるのかあ。よし、2人の恋路を応援させていただこう! 「まあ確かに会長は遊び人らしいですけどね、自分の想いに嘘をつく必要なんてありませんって!」 あ、俺今すげーいいこと言った! 「でもさっきの少年のときみたいに、自分の好みじゃないからって邪険に扱うのはどうかと思いますがねー」 「・・・・・・何言ってんだお前」 ・・・あれ? いつもみたいの不穏な空気が漂い始めてきた。 今まで漂わなかったのが不思議なくらいなんだけど、と言ってもこれはいきなりすぎじゃないか?俺今いいアドバイスしてるのに。 「え?だから、さっきの少年だって会長のことが好きであーいうことしたんだから、タロー先輩がいるんだとしても邪険に扱うのはどうか、と?」 「・・・・・・」 「いや、だからと言って誰かれとなくやれって言ってるわけじゃないですよ!」 「・・・・・・」 「今回は会長の好みに大感謝なのですが!さすがにことに及んでたら・・・」 「おい、てめえ」 ・・・・・・あれ? 不穏な空気が濃くなって・・・、 「うおぉ?!」 いきなり右拳が飛んできた。 「至近距離!近すぎだから!」 一瞬でも反応遅れたら危なかったぞ! しかしこう反論してる場合じゃない。 次の一発に備えて、不安定な姿勢を立て直そうとした、瞬間。 「・・・・・・あれ?」 今日の俺、あれあれ言い過ぎじゃねーか? と思ったときにはガチャンと金属の合わさるような音が聞こえた。いや、ガチャンって。 「・・・・・・」 なんでしょうか、この散々たるシチュエーションは。 * * * 身動きがとれない。 そして後ろにまわされてる腕から聞こえる、このカチャカチャという甲高い音はいったい・・・。 「手錠?!」 「洗面所に落ちてた」 「しかも俺のじゃねえか!」 無断使用かよ!いや、そこじゃない! 今までの恨みをこの機会に果たすつもりか?ここであったが百年目? 絶対そうだ!殴られる! 俺はとっさに目をつぶって衝撃に備えた。 「・・・・・・?」 けど、いつまで経っても予想していた衝撃は訪れなかった。 おそるおそる目を開けると、そこに見えたのは床に転がっている俺をただ見下ろしている会長だった。 「なに、なにこれ、なにプレイですか」 「・・・・・・」 黙るなよ。 会長が何をしたいのかはよくわかんないけど、俺はその隙を狙って唯一動く左足を動かして足払いを決めた。 でも不安定な姿勢の一撃はいつもの力の半分も出せなくて、会長の体が少しよろめいたところを見てもう一発食らわそうとした、瞬間、怪我をしている右足を、 「いだあああ!」 おもいっきり蹴られた。 「何すんだコルァ!」 こいつ鬼か! 怪我したときより痛かったぞ!はるかに! 「・・・・・・」 「ちょ、ええ!」 さらに、唯一動く左足までしっかり床に縫い付けられてしまった。 「・・・・・・」 「・・・・・・」 ・・・んー? いつ殴られてもいいように目をつぶってる俺をよそに、会長は何をするわけでもなく、ただ俺を見下ろすだけで。 ・・・拍子抜けっつーかなんつーか。 意味わかんねー。 「・・・殴るんだったらとっとと殴ってくださいよ」 俺は武士らしく腹をくくった。 「・・・・・・」 「殴んないですか?」 せっかく人が大サービスしてんのに。顔だって腹だって殴りたい放題ですよ? それともなんだ、今更情け? ・・・・・・。 いや、それはないな。怪我してるやつをなんの躊躇いもなく蹴れるやつだし。 「殴られるのとヤられんのどっちがいいか?」 「・・・・・・は?」 いきなり何っつーか、ヤら・・・? 「えっと?会長さん?」 「答えろ」 ヤるって、そーいう意味? 「・・・だったら殴られる方がいいに決まってんだろ!」 いきなりなんだ! っつーか本当に会長ってそっち系の人だったんだなーなんてしみじみ思ってみたりして。 いやいや、普通に考えれば俺相手にたたないだろって話だけど。 遠い目をしながら、俺は殴られる覚悟を決めていた。おっしゃーいつでもこい! 「・・・ってあんた何やってんですか!」 会長は殴るどころか、なぜか俺のズボンを脱がしにかかかるという意味不明の行動をしてい、て? 「ヤられる方がいやなんだろ」 「・・・・・・」 つまり、嫌がった方をやると?そういうことですか? 「このドSが」 「・・・・・・」 「え、じゃあヤってください!思いのままに!」 「遅い」 「ぎゃーーー!」 俺は右足の痛みも忘れてとにかく暴れまくった。そしたら、逆に振り上げた左足をがっしり掴まれてしまった。 「いっ!」 「これ以上暴れたら左足の骨も折るからな」 「・・・・・・」 いや、右足は折れてるわけじゃないですよとか、冷静につっこみ入れる余裕もなく。 掘られるのと、左足の骨を折られるのと、指の間接をはずすのと。 どれがいちばん痛くないか考えて、俺はいっそのこと殴ってくれと思った。 人のこと言えないけど、会長もほんと性格悪いよなー・・・。 * * * 「ずいぶん体張ったいやがらせですね」 自分を犠牲にしちゃうぐらい、俺が嫌いか。リアルにへこむなあ・・・。 「つーか、俺にたつんですか?」 「・・・・・・」 無理だろ。無理なんだよな。 思い止まるなら今だぞ!今なら間に合うぞ!恥ずかしい思いする前にやめた方がいいぞ! 「お互い微妙な感じになるだけだと思います!」 「黙れ」 「やだー!!」 「これ以上五月蝿くしたらクビにする」 「・・・・・・恭平さんが生徒会やめることになるけどいいの?」 「構わねえ」 「・・・・・・」 くそ。俺はボディーガードをやめるわけにはいかないのに。 もしそれを知ってて言ってるんだったら、ほんとに性格悪いなあ・・・。 「卑怯者ー」 俺は腹いせにぼそっと悪態ついた。そんなことしてもどうにもならないことは分かってるんだけど、これぐらい言わないと気が済まない。 「・・・あ、お面!」 「お面?」 「俺お面つけます!会長だって俺の顔見るよりそっちの方がいいですよね!」 俺だって顔見られたくないし、我ながら名案!と思ったこの案は 「余計萎える」 という会長の言葉で却下されてしまった。 俺相手に萎えるも何もないと思うんですけどね。 「じゃあずっと変な顔しててやるからな」 「・・・・・・」 「ね、ね、お面してた方がましですよね」 「どうせお前の顔なんか見ねーし」 「それってお面つけてても変わらないんじゃ!」 「・・・お前、俺の愛人やるって言ってたじゃねえか」 ・・・確かに、この部屋に移る前に言った気もしないでもない。 え、この人はそれを本気にしたんですか? 「ちょっ、それは言葉の綾というか!」 「そろそろ黙れ」 「ぅあ・・・っ!」 ・・・・・・き、きたねー! この人、俺の触ってるよ。ほんと捨て身の攻撃だな。 どうせ会長も本気じゃないと思ってた俺の予想は、運悪く外れてしまったらしい。 そもそも会長が冗談をつくようなタイプには見えないんだけど、まさか本気だったとも到底思えないだろ。冗談をつくどころか、通じもしないタイプだったらしい。 まじで正真正銘の変態だったんだ・・・。うわ、鳥肌たってきた。 「ちょ、なにや、って」 「・・・・・・」 「あ、アッ、」 死にたい。 確かにこれはダメージくらわすには有効な手だ。すげー。 「や、め・・・っぁア」 抵抗したくても腕は動かないし足も固定されちゃってるし、頭突きするほど会長も近くにいないし。 ちゃっかり反応しちゃってる自分も最低だし。 男だったら扱かれて反応しないわけがないだろ。不感症じゃなくて悪いか。 「まじ、で、はなさないと、まず、いっ、て・・・、」 「・・・・・・」 「はな、せ・・・ッ」 変な声が出ないように区切れ区切れ言う。 「ぅああ?!」 ・・・・・・。 そんな努力もむなしく、俺は声を上げてしまった。 ありえない。 いきなりひっくり返されたかと思うと、あらぬところに手が伸びてきた、とか。・・・いやいやいや。 本気で軽蔑するぞ、コラ。 * * * ひつじがいっぴき、ひつじがにひき・・・。 頭の中でぐるぐるまわってるひつじを数えて、ああ、ひつじってかわいいなあ、その毛にぽふっとしたいなあ・・・なんて現実逃避して、俺は考えることを放棄していた。 この状況を理解しろという方が無理ってもんだ。 死にたい。 あれから、どれぐらい時間がたったのだろう。 さっきから、俺の口からじゃとてもじゃないけど言えないっつーようなところから、ぐちゅぐちゅとか、これまた本来あっちゃいけない音が聞こえてくる。 そしてそこから感じる、異様な違和感。それはたやすく会長の指なんだろうなあって予想はつくけど、いやいや、望みは捨てちゃいけない。ああ、でも鉛筆とか入れられても微妙だ。 「・・・ッ、っア、」 顔をカーペットに押し付けて声が出ないようにしても、慣れない、っつーか慣れてたら逆にこわい痛みというか違和感に、体は空気を求めて。 「そんな、のいいから、早くつっこめ、よ・・・、」 そしてさっさと終わらせろ。 「い・・・・・・ッあああ!!」 死ぬ死ぬ死ぬ! 自分から言ったことだけど、これは痛さで死ねる! 「いたいいたい!!」 さっきまで指が入ってたところに、それとは比べ物にならないぐらいのものが入り始めていた。 死ぬ。 俺は今まさに、九死に一生を迎えたのだと悟った。 っつーか、あまのじゃくのくせに、何言われたとおりんなもん突っ込んでんくんだよ!いくら変態とは言っても、チャレンジャーにもほどがある。こんなとこでチャレンジャー精神出すんだったら違うとこでもっと有効活用しろ。 ていうか、なんで俺相手にたってんだか相当理解に苦しむ。いつの間にだ。 「ぃ、た・・・っ、うあア!」 不意にいっきに押し進まれて息が止まった。 拍子に涙が出そうになったけど、それを必死に堪える。 「く、るし・・・」 まじで窒息死しそうだ。 俺は必死で口をパクパクさせるが、どうしようもない圧迫感に、息を吸うどころか吐くことしかできない。 「・・・・・・高島とは、やってないのか」 「は・・・ァ、きょ、へいさ・・・?」 会長がいきなり喋ったことに面を食らいつつ、その内容を理解して、俺の頭にはひつじを吹っ飛ばす勢いでクエスチョンマークが広がった。 「やっ、てるわけねーだろ、!」 こんなときにまで話を飛躍させないでくれ。何も考えたくない俺の脳みそに負担をかけないでほしい。 段々拘束された腕も手首も痛くなってきて、俺はこんなことならいっそのこと間接をはずすべきだったと自分の迂闊さを心底恨み始めていた。 もうそんなことをする気力も残ってないし、逃げる体力もない。後悔先に立たずというやつだ。 「いたっ、い、・・・ッ、ぅう・・・」 胃が口から出そう・・・。 そういやカエルが胃を口から吐き出すって誰かが言ってたな・・・。 「ッ?!ふあ・・・!」 ・・・ソラシド? とか茶化さないと恥ずかしくて憤死しそうな声が、なぜか俺の口から出た。 なぜかと言っても、再びひつじを数え始めようとした俺をよそに、会長がまたすっかり萎えていた俺のに手を伸ばしてきたからなんだけど。理由は明白なんだけど。 絶対にこれに反応するわけにはいかない。そんなの最悪すぎる。 頭の中では理解してるのに。 ああ、萎えてたものがまた元気になって・・・。 「さわるな・・・ッ」 痛いだけならただの暴力で終わるのに。 そんな優しさはいらない。まったくもって、いらない。 「ひ・・・ッ!やだ、い、やだ、」 反応しかけている自身が憎いというか、痛いのに感じ始めている自分の方が痛いというか。 死にたい。死にたい。 あられもないようなところに会長のものを入れられて、さらに変な声出して、たち始めてるとか。どんだけ変態だよ。 俺ってマゾっけがあったのかなあ・・・。 「あ、ぁア、あッ」 金曜の13日が、いい日になるわけがなかった。 |